マッチング小説

交差する想い

1話:日常の喪失感

美咲(みさき)は、毎日のように忙しい仕事に追われ、家に帰ると深いため息をついていた。彼女は30代半ば、バリバリのキャリアウーマンで、周囲からも「デキる女」として信頼されていた。しかし、心の中ではどこか虚しさを感じていた。仕事は充実しているが、プライベートは何もない。

「このままでいいのかな…」
夫とは結婚して5年。だが、最近では会話も減り、お互いがすれ違い続けていた。愛が冷めたわけではないが、夫婦としての情熱が薄れてしまったのは否めなかった。そんな時、ふとしたきっかけで友人に勧められたマッチングアプリに手を出してしまう。

「誰かと話すだけなら、別に悪いことじゃないよね…」
そう自分に言い聞かせながら、美咲は軽い気持ちでアプリを開き、いくつかのプロフィールを流し見ていた。その中で、「隆(たかし)」という名前の男性が目に留まった。

「30代後半、独身、趣味は料理とランニング…」
どこか落ち着いた雰囲気を感じさせる彼のプロフィールに、興味を持った美咲は、思わず「いいね」を押していた。


2話:メッセージのやり取り

「はじめまして、美咲さん。趣味がいろいろ合いそうですね。もしよければ、少しお話ししませんか?」
隆からのメッセージは、丁寧で優しさが感じられるものだった。美咲は、彼の誠実そうな印象に引き込まれ、軽い気持ちでメッセージを返した。

「はじめまして。ランニングが趣味なんですね!私も最近始めたんです。」
そこから始まったやり取りは、毎晩のように続いた。彼との会話は心地よく、仕事や家庭のことを忘れて楽しめる時間だった。隆も仕事が忙しいらしく、同じようにプライベートに余裕がないという点で二人は共感し合った。

「もし時間があったら、今度一緒にランニングでもしませんか?」
そんなメッセージが隆から届いた時、美咲は一瞬戸惑ったが、なぜか会ってみたい気持ちが抑えられなかった。

「少しだけなら、外で走るだけだし…」
自分に言い訳をしながら、彼女はその誘いを受け入れた。


3話:初めてのランニングデート

週末の早朝、待ち合わせ場所は川沿いのランニングコース。美咲は、まだ心のどこかで罪悪感を抱えながらも、軽快なランニングウェアに身を包んでいた。すると、爽やかな笑顔で手を振る隆が現れた。

「美咲さん、はじめまして!今日はよろしくね。」
彼のフレンドリーな態度に、美咲はすぐにリラックスできた。二人は軽く走り始め、息が切れることなく自然に会話が続いた。

「最近、仕事ばかりで運動する時間がなかったから、こういうの新鮮だなあ。」
「わかるよ、僕も仕事が忙しくて、自分の時間を持つのが難しいんだ。」

走りながら、共に抱える悩みやストレスについて語り合ううちに、二人の間に一体感が生まれていった。走り終えた後、軽く休憩を取るためにカフェへ寄ることになった。


4話:カフェでの新たな感情

カフェに座り、二人はコーヒーを片手に、さらに深い話を始めた。お互いの仕事や、過去の恋愛、そして現在の生活についても少しずつ打ち明け始めた。

「結婚して5年目なんだけど、最近は夫との会話が少なくなっちゃって…」
美咲がぽつりと打ち明けると、隆は少し驚いた表情を見せた。「そうだったんだ…。でも、仕事も頑張ってるし、誰だってそういう時期はあるよね。」

彼の優しい言葉に、美咲は少しだけ胸が締め付けられた。これまで誰にも言えなかった心の悩みを、初めて打ち明けることができた気がした。

「ありがとう、なんだか少し楽になったかも。」

その後も会話は途切れることなく続き、気が付けば数時間が過ぎていた。二人は再びランニングの約束をして別れたが、美咲は隆との時間が忘れられなかった。


5話:心の揺れ

その日以降、美咲と隆はランニングを口実に、頻繁に会うようになった。最初は軽い運動と会話だけだったが、次第に二人の関係は深まり、お互いの存在がより特別なものになっていった。

「このままでいいのかな…」
美咲は夫への罪悪感を抱えながらも、隆との時間が心の支えになっていることを否定できなかった。

ある日、隆がふと真剣な表情で問いかけた。「美咲さん、僕たち、このままで本当にいいんだろうか?」

その言葉に、美咲も何も答えられなかった。彼の存在が自分にとって大きくなりすぎていることを自覚しながらも、どうしても手放せない自分がいた。

「…もう少しだけ、今のままでもいい?」
美咲のその言葉に、隆は静かに頷いた。


6話:決断の日

日が経つにつれ、美咲は次第に自分の中で葛藤を抱え始めた。夫との関係を修復するか、隆との関係を続けるか――二つの道の間で揺れていた。

「どちらかを選ばなければいけない時が来る…」

そんな思いが彼女を苦しめた。そして、ついにその日が訪れた。隆とのランニング中、彼は真剣な顔で美咲に告げた。「僕は、もう君を手放したくない。でも、君が幸せならそれでいいんだ。」

その言葉に、美咲は涙を浮かべながら答えた。「ごめん、隆。私も同じ気持ちだった。でも…夫と一緒にいることを選ぶことに決めたの。」

その瞬間、二人は静かに別れを受け入れた。


7話:選んだ道

美咲は、夫との生活をやり直す決断をした。隆との時間は、彼女にとって特別なものだったが、日常を捨てることはできなかった。

「さようなら、隆…」

心に残る痛みを抱えながらも、美咲は前に進む決意をした。日常は変わらないようで、彼女の心には少しずつ変化が訪れていた。夫との会話が増え、少しずつ関係を修復しようとしていた。

そして、いつか再び心から笑える日が来ることを信じながら、美咲は新たな一歩を踏み出したのだった。


最後に

美咲は、日常の中で失った何かを求めてマッチングアプリに手を出し、隆という男性と出会う。しかし、彼女は最終的に家庭を選び、背徳的な恋を終わらせる決断をする。禁断の恋愛が美咲に教えたのは、失われた愛を再び見つけるためには、自分と向き合うことの大切さだった。

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